急成長するベトナム教育業界へ挑む:日本企業が求められる理由と成功の鍵  

はじめに 

ベトナムの人口は2023年時点で1億人を超え、2040年頃には日本の人口を上回ると見込まれている。 

特に若年層が多く、0~14歳の人口は約2,260万人と日本の約1.5倍であり、平均年齢の中央値は31歳(日本は48歳)と若さが際立つ。 

一方で、急増する若年層に対し、教育機関の収容能力が追い付かず、過去には大学志願者の3分の1しか受け入れられなかった事例もある。 

教育の質の向上と規模の拡大が求められる中、変革期にあるベトナムの教育市場で、日本企業がM&Aを通じて進出する意義とそのメリットについて解説する。 

なぜ今ベトナムの教育市場なのか 

若年人口の多さ・教育格差 

ベトナムでは、直近5年間で政府施策により学校数は減少したものの、人口増加に伴い、生徒の人数は増加傾向にある。 

2021年~2022年において、ベトナムの初等中等レベル(ベトナム一般教育レベル相当)の在学生徒人数は約2,400万人である。 

一方で、日本の2020年の初等~高等教育機関の在学者数は約1,845 万人で、うち初等中等レベル(ベトナム一般教育レベル相当)の在学数は1,470万人と、ベトナムより少ないが、初等~高等の学校数は5万校以上あり、ベトナムより多い。 

すなわち、ベトナムでは、学校施設の不足が深刻化しており、教育格差が社会課題となっている。 

第二言語としての英語 

ベトナム人の英語力は、非英語圏で41位、アジアでは24カ国中7位と評価されており、日本よりも英語力が高いと言われている。 

さらに、2024年8月、ベトナム政府は正式に英語を第2言語として認定し、今後英語教育を強化していく方針である。 

したがって、今後、子供への英語教育にだけでなく、これまで英語教育を受けてこなかった大人への英語教育サービスも、有望なビジネス領域になると考えられ、多様な英語教育のニーズが高まると想定される。 

ベトナム進出方法としてのM&Aの魅力とは 

既存の顧客基盤の活用 

海外市場への進出方法として、駐在員事務所や現地法人を独資で設立する方法もある。 

ただ、現地のネットワークも無い中で、ゼロから取引先や顧客を開拓するには、多大な労力と時間を要するため、現地に進出してから、実際に利益を上げられるようになるまで、数年単位の時間がかかることも多い。 

一方で、既に現地で営業活動を展開するベトナム企業とM&Aをすることで、M&Aの実行直後から、ベトナム企業が保有する顧客基盤を活用することができるため、顧客を獲得するためのコストを大幅に削減することが可能である。 

ローカルニーズと教育文化の理解 

非常に地域密着型である教育業界において、ベトナム特有の教育文化やニーズに精通している現地企業を買収することで、市場環境に適したカリキュラムや教育方法を迅速に導入することができる。 

ベトナム現地企業とのM&Aにより、現地の教育方針や家庭の教育観、需要の変化を理解している企業のノウハウを活用できる点は大きな強みである。 

外資規制の回避 

ベトナムでは、業種によって外資企業の出資が規制されており、特に教育関連の事業は規制が多く存在する。 

このように規制の多いベトナムの教育業界への進出として、最も有効な手段が、ベトナム企業とのM&Aや合弁設立である。 

仮に日本企業が独資で進出できない事業を展開しようとする場合でも、M&Aや合弁の設立により、外資規制を回避しながら現地市場へ進出することができるようになる。 

また、外資企業の出資上限が49%となっている事業においても、日本企業が実質的に経営権を掌握するようなスキームを策定することも可能である。 

日本企業にとってのベトナム教育市場進出の意義 

日本の教育サービス・教材の高い評価とブランド力 

ベトナムは、若年層人口の多さと教育熱の高まりを背景に、教育市場が急速に成長している市場である。 

特に、質の高い教育を求める家庭が増加しており、日本の教育サービスや教材は高品質かつ信頼性の高いブランドとして現地で高評価を得ていることが強みである。 

受験・英語教育、Ed-Techのノウハウ 

日本企業が持つ受験対策や英語教育のノウハウは、学力向上を重視するベトナム市場と高い親和性を持つ。 

さらに、ITを活用したEd-Techの導入による個別最適な学習支援は、効率的な教育モデルとして現地市場の需要を捉える有力な手段である。 

ベトナムの教育業界におけるM&A事例 

DTP Education Solutions JSC (DTP社) との資本業務提携 

2023年4月11日、学研ホールディングスはベトナムのホーチミンに本社を置くDTP社の発行済株式と第三者割当の新株を引き受けDTP社株式の35%(230万株)を取得し、主要大株主の一員として経営に参画した。 

本提携では、①学校向けSTEAMプログラムの開発・展開②学校を対象とする書籍販売③オンライン英会話事業を展開することを目的としている。 

学研ホールディングスは、2030年までにグローバル事業の比率を30%まで拡大することを目標としており、ベトナムでの事業展開を通じて、学研は東南アジア市場での教育事業の拡大と、日越教育業界の発展に貢献することを目指している。 

外資規制 

ベトナムでは、展開する事業によって外資規制が設けられており、特に教育業界においては、細かな規制が存在する。 

例えば、学校などの教育施設に関連する事業を展開する場合、認められている進出形態および、必要とされる資本は以下のとおりである。 

短期教育施設:2000万VND/学生数) 

就学前教育施設:3000万VND/生徒数) 

一般教育施設(小学校、中学校、高校):5000万VND/生徒数 

大学教育施設:5000億VND以上 

外国大学教育施設の分校:2500億VND 

外国資本の出資比率に関する規制は、事業内容によって異なるため、具体的な条件については現地当局や弁護士に確認することが重要である。 

代表的な教育企業 

KiddiHub Education Technology Joint Stock Company 
2020年に設立されたEdTech企業 
2023年に同社と学研ホールディングスが資本業務提携契約を締結している 
ベトナム最大級の園・習い事口コミサイト、教育情報サイトを運営する 
約1万の幼稚園や教育機関等が掲載されている 
特に幼児教育分野に強みを持つ 

ベトナムの教育業界におけるM&Aの課題 

現地市場に精通したパートナーの選定 

ベトナムでは都市部と地方で教育ニーズが大きく異なるため、一律の戦略ではなかなか成果を出しづらい。 また、保護者の所得水準や教育意識の差により、求められる授業内容や形式も多様となる。 

このように、特に教育業界においては、ベトナム特有の教育意識やニーズに影響を受ける面が大きいため、ベトナム企業とのM&Aでは、いかにベトナム現地の事情に精通したパートナー企業を見極めることができるか否かがポイントとなる。 

現地企業との競争 

ベトナムの教育市場は有望である一方で、現地企業との競争は激しく、優良なパートナー企業との提携が成功の鍵を握る。 

しかし、そうした企業が自ら市場に売りに出ることは少なく、買い手側から働きかけて交渉の場につかせる必要がある。 

優良案件の発掘や交渉は決して容易ではないため、現地事情に精通し、文化や商慣行への理解が深い専門家のサポートが重要となる。 

さいごに 

ベトナムの教育市場に進出するには、適切なパートナー企業の選定と信頼関係の構築が不可欠である。 

しかし、現地の優良案件を発掘し、交渉を成功に導くには高度な専門知識と経験、多様なコネクションが求められる。 

弊社はこれまで培ったネットワークと実績を活かし、日本企業の目標達成を全力でサポートするため、ベトナム企業とのM&Aに興味のある方は、ぜひお問い合わせいただきたい。