国内市場成熟時代の成長戦略:海外M&A活用の成功ポイント

国内市場成熟時代の成長戦略:海外M&A活用の成功ポイント

はじめに

日本国内市場は少子高齢化や人口減少、消費需要の停滞といった構造的課題に直面している。これにより多くの企業が国内での成長機会を見出しにくくなり、持続的成長のためには海外市場への進出が不可避となっている。
なかでもベトナムは、人口約1億人、平均年齢30代という若年人口構造、高い経済成長率、拡大する中間層といった強みを有しており、製造業、IT、消費財、再生可能エネルギーなど多様な分野で市場機会が拡大している。こうした環境の中、短期間で現地事業基盤を獲得し成長産業へ参入できる手段として、M&Aの活用が注目されている。
さらに近年では、日本企業がベトナム企業を買収するだけでなく、ベトナム企業が日本企業を買収・出資し、技術やブランド、販路を取り込む動きも増加していくと見られる。この双方向のM&Aは、両国企業にとって新たな成長機会を生み出す戦略となり得る。

ベトナムM&A市場の動向

ベトナム経済は過去10年にわたり高い成長を維持し、政府は外資誘致政策を継続している。特に製造業や輸出志向産業に加え、デジタル経済や再生可能エネルギー、物流、消費財分野が急速に拡大している。
M&A市場においては、外資による現地企業の買収、国内大手同士の統合・再編が進む一方、ベトナム企業が海外進出のためにM&Aを活用する動きも見られる。日越間では以下のような構図が形成されつつある。

・日本企業がベトナム企業を買収し、成長市場への即時参入を図る動き
・経済成長に伴い、逆にベトナム企業が日本企業に対して買収・出資を検討する動き
・双方の企業が第三国市場進出を見据えて戦略的提携を行う動き

これにより、日越間のM&Aは従来の一方向型から相互補完型へと変化していくと考えられる。

ベトナムM&Aのトレンド

成長産業集中型M&A
ITサービス、再生可能エネルギー、物流、消費財といった成長分野に資本が集中している。
特に再エネ分野では送電網拡充や発電設備投資が進み、外資の参入が加速している。

PMI(Post Merger Integration)重視
買収後の統合プロセスが成果を左右するとの認識が広がっている。
経営方針の擦り合わせ、人材維持、業務プロセスの統合など、買収契約締結後の段階での戦略設計が不可欠である。

双方向越境M&Aの増加
日本企業によるベトナム進出型M&Aに加え、ベトナム大手が日本市場へ進出する動きが見られる。たとえばFPTは、日本のITサービス会社である株式会社ネクストアドバンストコミュニケーションズへの出資を通じて技術基盤と顧客基盤を拡充した。

M&A活用のメリット

日本企業がベトナム企業を買収する場合
・現地の販路・顧客基盤への即時アクセスが可能である
・現地の経営ノウハウや人材を確保できる
・許認可取得や規制対応における時間短縮が期待できる
・成長産業への迅速な参入が可能である

ベトナム企業が日本企業を買収する場合
・高度な技術力や確立されたブランドを獲得できる
・日本市場での信頼性を向上させられる
・製造・品質管理のノウハウを吸収できる
・グローバル市場展開のための足掛かりを築ける

これらのメリットは短期的な収益拡大だけでなく、中長期的な企業価値向上に寄与する。

課題・リスク

文化・経営スタイルの相違:意思決定のスピードや組織運営のスタイルの違いが統合を阻害することがある
デューデリジェンス不足:財務・法務・税務における潜在リスクの見落としは致命的な損失を招き得る
規制環境の変動:外資規制や税制変更により事業計画が大きく影響を受ける場合がある
パートナー選定の難易度:経営理念や戦略の一致が不十分なまま提携すると、シナジーを生み出せない可能性が高い

これらを回避するためには、事前調査の徹底、現地事情に精通した専門家の活用、そしてPMIの戦略的設計が不可欠である。

ベトナムM&A市場の代表的企業と直近動向

VinGroup
不動産、電動自動車、小売、医療など幅広い分野で事業を展開する国内最大級企業である。2024年にはVincom Retail部門で約9.82億米ドル規模の株式売却を実施し、資本再編を進めた。海外投資家との提携にも積極的である。

FPT Corporation
ベトナム最大手のITサービス企業である。2023年にはフランスのAOSISや米国のCardinal Peakを買収し、欧米市場を拡大した。日本市場にも長年拠点を持ち、日系企業との協業や買収事例を有する。

Masan Group
消費財・小売分野の大手企業である。2019年にVinGroupから小売・農業部門を統合し、国内最大の小売グループを形成。2021年にはPhúc Longティーショップ過半数取得、食品・飲料ブランド買収を継続している。

おわりに

海外M&Aは日本企業にとって国内市場成熟時代の有効な成長戦略であり、ベトナムはその有望な舞台の一つである。加えて、ベトナム企業が日本企業を買収する動きも活発化し、双方の企業にとって新たな成長機会が広がっている。
こうしたM&Aは単なる事業拡大にとどまらず、新たな価値創造の起点となるものであり、成功には市場調査、パートナー選定、統合プロセスの徹底的な準備が不可欠である。近く、より具体的な事例や実践的な進め方を学べる機会も予定されており、この流れを活用することで、企業は次の成長ステージへと進むことができるであろう。