ベトナムエネルギー業界全体の概況 

ベトナムエネルギー業界全体の概況

はじめに 

経済発展を続けるいまのベトナムエネルギー業界にとって重要なキーワードは「安定供給支払い可能な価格」「排出削減」である。猛暑の年はエアコンが一斉に動き、夕方から夜に電力需要が跳ね上がることから、2024年6月には「1日で10億kWh超」「最大電力約5万MW」という過去最高が並び、ピーク時の脆さが露呈した。電力需要が集中する時間帯に、供給サイドに余裕がなくなりがちである。(EVN

同時に、発電所や送電網への投資は増えており、2025年5月には平均小売電価が約4.8%上昇した。短期の経済的負担を国民に強いつつ、停電を減らし、燃料依存を下げるための中長期的な“必要経費”として、政府は電力価格を設計している。 (EVN

ベトナムエネルギーの全体像 

エネルギーは電力運輸の燃料産業動力の三つの使い道が中心である。ベトナムでは風や太陽の好条件が中南部に多い一方、需要は北部・南部の大都市に集まる。山で集めた水を遠くの街へ送るのと同じで、パイプ(送電網)が細いと流しきれない。これが出力抑制や地域ごとの電力のひっ迫につながる。 

ベトナムの電力の動向と課題 

ベトナムでは、電気は再生可能エネルギー電源(太陽光・風力など)供給増加調整可能電源(石炭・ガス・水力など)の組み合わせでまかなわれている。天候条件により影響を受けるの“振れ幅”を、石炭やガスなどの出力調整可能な電源が吸収する構図。ただし先述の通り、ボトルネック送電の効率性・歩留まりにある。 

1.幹線の強化:長距離を低損失で運べる直流の幹線は、電気の高速道路(HVDC)。これを前倒しで整えるほど、地域間の“渋滞”は減る。PDP8の改定でも広域連系の強化が柱になった。 

2.貯める仕組み:大規模蓄電池(BESS)は、昼の太陽を夜へ回す“電気の貯金箱”。送電が詰まる時間帯の圧力を和らげ、再エネの出力変動も吸収する。 

3.運用ルール:周波数調整や予備力に“値段”を付ける市場整備で、より柔軟な料金体系での電力供給を可能にできるよう、新しい電力法はこうした土台を整える役割を担っている。 
 

ベトナム物流業界の電動化動向 

物流業界のエネルギー転換は、近距離×台数の多いところから進めるのが効果が高い。都市の二輪や乗用EV、拠点充電ができるバス・配送は成果が出やすい。一方で大型トラックや船・航空は、重量や航続の制約が大きく、水素由来の燃料(アンモニアやメタノールなど)を段階導入していく流れになる。 

屋根上太陽光の余剰電力を買い取る方針も出てきた。家庭やオフィスが発電し、運輸の充電やビル需要に回るほど、都市部の電力負担は相対的に軽くなる。 

ベトナムの産業の電化と効率化 

工場は蒸気や高温のを必要とする。従来型の化石燃料を燃やすボイラーやヒーティング設備が、電気ヒーターや電気ボイラーに置き換えられる状況は増えつつある。電化が難しい工程は、高効率化バイオマスで化石燃料の使用を減らす取り組みも進んでいる。 

 
こうした脱石油燃料・電化で前提になるのが電力の安定供給である。電気窯に替えても、ピーク時に電気が不安定では止まってしまう。だからこそ、電力側の“高速道路(送電)”と“貯金箱(蓄電)”の整備が、産業の電化の土台になる。 

ベトナムの新燃料の導入動向 

水素は、電化が難しい工程や長距離輸送の切り札候補として導入の検討が進んでいる。政府の戦略は2030年に年10万~50万トン、2050年に1,000万~2,000万トンの生産をめざす。最初は一部工程の置換や混焼など、用途を絞って広げる段階が続く。 

CCS(CO₂回収・貯留)は、エネルギー利用の過程でどうしても発生する二酸化炭素(CO2)に対する最後の手段。石油・ガス田の知見を活かし、Petrovietnam×JOGMECによる共同スタディなど、実現可能性の検討が進むが、商用化には地質評価、輸送網、責任分担などのルール作りが必要である。 

ベトナムエネルギーの関連制度と政策 

PDP8改定(2025年4月):2030年までの電源の“配合”を見直し、総設備の大幅増(183〜236GW)、再エネ拡大、原子力の再導入を明確にした。狙いは、石炭の比率を下げつつ、需要の伸びを支えること。 

電力法2024(2025年2月施行):PPA、市場運用、系統サービス、接続などの共通ルールを定めた。電力分野で他法と食い違う部分は電力法を優先するという“優先順位”も示し、実装のスピードを意識した作り。 

DPPA(再エネの直接売買):再エネ発電所と工場などの大口需要家が直接契約できる仕組み。輸出企業の「再エネ電力証明が欲しい」に応え、需要家の資金が再エネ案件へ流れやすくなる。制度化は2024年に政令で示され、法と一体で整備が進む。 

おわりに 

ベトナムのエネルギー転換は、発電の量だけでは前に進まない。運ぶ道(送電)貯める力(蓄電)使い方の設計(電化・効率化)、そして投資を動かす交通規則(制度)を同時に組み合わせることが肝要である。ピーク時に止まらず、価格の見通しが立ち、環境汚染物質の排出も減る――この三つを同時に実現するための最短ルートは、ここまで述べた「送る×貯める×使い方×制度」の一体設計にある。