ベトナム × 再生エネルギー(風力・水力・太陽光) 

ベトナム x 再生エネルギー(風力・水力・太陽光) 

はじめに 

ベトナムでは工場の増加と都市化で電力需要が伸び、太陽光・風力・水力が急速に広がっている。2023年末の発電設備は約8.06万MWで、太陽光+風力が約2.17万MW、水力が約2.29万MWと、再エネが電源の大きな柱になった。太陽光は高値買取の時期に一気に増え、風力は2021年前後に導入が進み、水力は長年の基盤である。政府は2030年に向けて発電所と送電線を増やす国家電力開発計画(PDP8)を進め、工場などが発電事業者から直接クリーン電力を買える制度である電力直接購入契約(DPPA)の整備も進行中。つまり、再エネは「環境のための良いこと」だけではなく、工場の稼働と輸出の競争力を支える成長インフラへと役割が広がっている。 (EVN

ベトナム再生エネルギーの市場動向 

要点は、電気を「作る・運ぶ・使う」の三つを同時に強くすることである。現在、発電所は日射や風に恵まれた南中部に偏り、電気を北部の需要地へ送る送電網に余裕が不足しやすい。そのため、猛暑や生産増の局面では、発電しても系統に流しきれない出力抑制節電要請が生じる。国家電力開発計画はこの偏りを是正するため、送電線の新設・増強に加え、需要地に近い再エネや屋根上太陽光+蓄電の拡大を打ち出している。つまり、再エネを増やすだけでは不十分であり、どこで発電し、どのルートで運び、誰が使うのかを一体で設計することが実務上の要となる。(Reuters

ベトナム再生エネルギーの主要プレーヤー 

国内勢は、用地・許認可・系統接続・施工の実務力に強く、太陽光と風力を一体で開発するモデルが主流。運転後の資産売却で資金を循環させ、次の案件へつなぐ。 

Trung Nam Group:ニントゥアン省で太陽光204MWac。太陽光×風力の複合開発で存在感。 

PC1(PCC1):クアンチ省で風力48MW×3=144MW(Lotus Wind)。ADBのグリーンローンなど外部資金を活用。 

Sao Mai Group:メコンデルタで大規模太陽光を継続。地場資本の施工・運営ノウハウが厚い。 

海外勢は、資金力運転中資産の取得力、そして洋上風力の技術で存在感。合弁や買収でスピーディに拡大する。 

Sembcorp(シンガポール):運転中245MWの再エネ資産を取得へ。稼働実績のある電源を束ねるポートフォリオ戦略。 

SK ecoplant(韓国)×BCG Energy(越):合計700MWの共同開発。屋根上・地上・風力を組み合わせ、需要地近接を狙う。  

PNE(ドイツ):ビンディン省で洋上風力2,000MW(Hon Trau)を構想。2030年代以降の柱候補。 

ベトナム再生エネルギーの関連法令と制度 

電力法 61/2024/QH15(2025年2月施行):電力の基本ルールを更新。発電・送電・小売の役割接続ルールを整理し、再エネ市場の土台に。 

政令57/2025(DPPA):企業が再エネを直接購入できる仕組みを正式化。系統経由や専用線での取引を想定し、対象基準や価格の決め方を明確化。  

改定PDP8(768/QD-TTg, 2025年4月):2030年までの電源・送電の増強再エネ比率の引上げを決定。北部の需給対策と送電拡充を重点化。 

ベトナム再生エネルギーのチャンスとリスク 

輸出企業を中心にクリーン電力の需要が強く、電力直接購入契約を使えば、将来の電気料金の見通しを持ちながら長期契約を結びやすい。最初の一歩は、屋根上太陽光+蓄電池で小さく始める方法が現実的である。これは停電対策になり、同時に電気代の変動を抑える効果もある。さらに、すでに稼働している発電所を取得(M&A)すれば、建設を待たずに短期間で成果を出しやすい。 

 
一方で、送電網の混雑や猛暑時の需給逼迫により、「発電しても送れない」状況が起きる可能性がある。加えて、制度価格の見直し、支払い条件の変化にも注意が必要実務上は、まず立地(需要地に近いか、送電に余裕があるか)を確認し、次に相手先の信用力(支払い能力・実績)を点検する。最後に契約条項(価格の決め方、出力抑制が起きた場合の扱い、支払い条件・期間)を事前に明確化しておけば、計画のぶれを最小化できる。 

おわりに 

ベトナムの再エネは、需要の伸びと制度整備で「計画」から「実行」のフェーズへ移った。はじめての企業は、①屋根上+蓄電で小さく検証、②合えばDPPA中期の価格と調達を固定、③必要に応じて運転中資産の取得で規模を伸ばす、という段階戦略が安全で現実的。中期の主役は陸上風×太陽×蓄電の組み合わせ、洋上風力は2030年代の柱という見立てが妥当で、最後は「作る・運ぶ・使う」を束ねる設計力が勝敗を分ける。