ベトナムM&A財務調査の実務チェック要点 

ベトナムM&A財務調査の実務チェック要点

はじめに 

M&Aにおいて最も重要な調査のひとつが「財務デューデリジェンス(財務調査)」です。これは対象企業の財務状態や収益力を把握し、潜在的なリスクを洗い出す工程です。数字の裏に潜む不透明さを見抜けなければ、買収後に想定外の債務や税務リスクが表面化し、投資回収計画に大きな支障をきたす可能性があります。 

特にベトナムでは、日本とは異なる会計基準、保証契約の習慣、税務処理の取り扱いなど、独自の留意点があります。本記事では、ベトナムにおける財務デューデリジェンスの実務ポイントを整理し、典型的な注意点と事例を解説します。 

ベトナムM&A市場の動向 

ベトナムは製造業、IT、小売、物流など幅広い分野でM&Aが増加しています。背景には以下の要素があります。 

・経済成長と中間層の拡大による消費市場の拡大 

・政府による外資投資の促進政策 

・事業承継や資本提携を希望する現地中小企業の増加 

一方で、会計制度の整備状況はまだ発展途上にあり、国際基準との違いも大きいため、買収前の財務調査が欠かせません。 

財務デューデリジェンスで確認すべき主要ポイント 

1. 会計基準の差異 

ベトナムでは「ベトナム会計基準(VAS)」が適用されますが、国際基準(IFRS)や日本基準と異なる点が多くあります。たとえば、収益認識や減価償却の考え方が異なるため、数字をそのまま比較することはできません。財務諸表を読み替える作業が必要となります。 

2. 債務保証の有無 

中小企業では、経営者が個人で金融機関に保証しているケースも多く見られます。買収後に予期せぬ保証責任を引き継ぐリスクを避けるため、対象企業がどのような債務保証を行っているか確認が必須です。 

3. 税務調整 

税務申告と実際の取引に差異があるケースもあります。特に売上計上のタイミングや仕入経費の扱いなどで、調整が必要になることがあります。過去の税務調査の結果や未払い税金がないかどうかも確認すべきポイントです。 

財務デューデリジェンスのメリット 

財務面の調査をしっかりと行うことで、次のようなメリットを得られます。 

潜在リスクの早期発見:帳簿外の債務や税務上の不備を事前に把握できる。 

企業価値の適正評価:会計基準の差異を調整し、実態に即した価値算定が可能。 

価格交渉に活用:調査結果をもとに、買収価格や条件を調整できる。 

将来の安心感:統合後の予期せぬトラブルを減らし、経営の安定につながる。 

財務デューデリジェンスで直面する課題・リスク 

実務上は次のような課題が発生しやすいです。 

会計処理の不統一:企業によって会計基準の運用が異なり、数字の比較が難しい。 

資料の信頼性:中小企業では会計帳簿や契約書の整備が不十分な場合がある。 

隠れ債務の存在:経営者が口頭で保証しているケースや、簿外取引が潜んでいることもある。 

税務リスク:過去の処理に問題がある場合、追徴課税のリスクが残る。 

ケーススタディ 

事例1:会計基準の差異による誤算 

ある日系製造業は、現地企業の財務諸表をそのまま評価しました。しかし、収益認識の基準が異なり、実際の利益率は当初の想定よりも低いことが後から判明しました。最終的に投資回収に遅れが生じました。 

事例2:債務保証の見落とし 

別のケースでは、買収後に経営者が個人で行っていた金融機関への保証が発覚。交渉が難航し、追加対応に多大なコストがかかりました。 

事例3:税務調整の問題 

サービス業の買収において、過去の税務申告と実際の売上に乖離があり、買収後に追加納税が必要となりました。結果として想定外の資金流出が発生しました。 

さいごに 

ベトナムにおける財務デューデリジェンスは、会計基準の違いや債務保証、税務調整といった特有のポイントに注意を払う必要があります。これらを軽視すると、買収後に大きなリスクが顕在化する恐れがあります。 

日本企業にとって重要なのは、現地会計の実態を正しく理解し、国際基準との橋渡しを行うことです。現地の専門家や税務アドバイザーと連携しながら調査を進めれば、潜在リスクを回避し、投資の確実性を高めることができます。 

M&Aは一度きりの契約で終わるものではなく、長期的な事業運営の基盤を築くものです。財務調査の徹底こそが、ベトナム市場でのM&A成功の第一歩となります。