ベトナムM&A:人事デューデリは必要?

M&A(合併・買収)取引において、財務や法務のデューデリジェンス(DD)は一般的であるが、人事DDの重要性はしばしば見過ごされがちである。特にベトナムにおいて、企業文化や人事管理の特性を理解することは、M&Aの成功に不可欠である。

人事DDの重要性

企業買収に際し、組織文化の相違は大きな障壁となることがある。ベトナム企業特有の組織文化を理解し、買収後の統合プロセスにおいて文化的衝突を最小限に抑えることが重要である。

また人事DDは、ターゲット企業の人材の能力とポテンシャルを評価する機会を提供する。特に、管理職や重要な技術職の人材に関しては、その能力と企業に対するロイヤリティを適切に評価することが、買収後の業績に直接影響を及ぼすことになる。

さらに当該会社がベトナムの労働法を遵守しているかも重要なカギである。ベトナムの労働法は、他の国々と異なる特徴を有している。労働法規の遵守状況を把握することは、法的リスクを回避し、労働関連の問題が買収後の業務に悪影響を及ぼすのを防ぐために不可欠である。

人事DDの実施方法

従業員のインタビューと調査

従業員へのインタビューやアンケートを通じて、組織の雰囲気、従業員の満足度、組織内のコミュニケーションの流れなどを把握することが必要である。従業員が多い場合は、各部署のリーダー・マネージャークラスおよび役員等の会社のキーパーソンに絞ってインタビューを実施する必要がある。

労働契約書のレビュー

重要な従業員の労働契約をレビューし、解雇条件、競業避止条項、報酬体系などを理解する。特に多いのは企業側が従業員を一方的に解雇できる条件が含まれているケースである。会社にとっては都合の良い内容であるが、ベトナム労働法ではそのような一方的な内容を契約に含めることは明確に禁止されている。そのためコンプライスリスクを避けるためにも、当該条項を削除した労働契約書を、従業員と新規に締結しなおすことが必要となる。

労働法遵守の確認

労働法の遵守状況を確認する。労働契約書で決められていることでも、実際には実施されていないような内容がある場合は、労働法違反がないかを慎重に確かめる必要がある。例えば就業時間は計測され、結果に応じて残業代を支払うことが契約書に定められていても、実際にはタイムカードが存在しないケース等がある。

最後に

ベトナムにおけるM&A取引において、人事DDは財務や法務DDと同等に重要である。人事DDを通じて組織文化、人材、労働法遵守の状況を理解することで、買収後の統合プロセスが円滑に進むとともに、買収によるリスクを最小限に抑えることが可能となる。実施にあたっては専門家と相談しながら効率的な人事DD計画を進めることが必要となるだろう。