ベトナムデータセンター市場のM&A機会:デジタル化の加速と需要の拡大

目次
はじめに
ベトナムは近年、経済成長とデジタル化の急加速により、ITインフラ分野への投資が大幅に増加しています。その象徴がデータセンター市場の急成長です。電子商取引やキャッシュレス化、AI・IoTの普及が進み、膨大なデータを迅速かつ安全に管理する必要性が急拡大しています。
政府もデジタル経済を2030年までにGDPの30%超にするという野心的な目標を掲げ、官民一体でデジタル社会の実現に邁進しています。この流れの中、データセンター業界は今後のベトナム経済を支える重要な基盤となっており、M&Aを活用した事業拡大や海外勢との連携が活発化しています。
ベトナムのデータセンター市場動向
近年のベトナムにおけるデータセンター市場は著しい成長を見せています。2024年時点での市場規模は約6億5,400万ドルに達し、今後も年平均成長率17.9%というハイペースで伸び、2030年には17億5,000万ドル規模が見込まれています。
市場成長の要因と背景
この成長をけん引しているのは、DX(デジタルトランスフォーメーション)推進政策やクラウドサービス、AI活用の拡大、スマートフォンの普及などです。金融・製造・流通・通信など主要産業でクラウドやビッグデータ、IoTへの投資が加速しており、特にベトナムの若い人口構成や新興IT企業の活発な動きが市場の底堅さを支えています。
政府の後押しと新たな潮流
また、法制度面でも政府はデータセンター投資を優先分野と位置付け、各種インセンティブや税制優遇策を打ち出しています。ハノイやホーチミン市といった大都市圏のみならず、ビンズオンやダナン、クアンニンといった地方都市でも新設・拡張案件が相次いでいます。さらにAI対応やグリーンエネルギー利用、災害リスク分散を目的とした「グリーンDC」「AI特化型DC」といった新潮流も生まれています。
ベトナムのデータセンター業界におけるM&A動向
2023年以降、国内外の主要プレイヤーによるM&Aや出資・合弁が活発になっています。
海外大手クラウド事業者やファンドがベトナム市場への本格参入を図る一方で、現地有力企業も資本力・技術力強化を目的とした提携や買収を加速。業界の寡占化と再編が進みつつあります。
2024年6月には、日本のNTT Global Data CentersとベトナムのDQTekが合弁会社を設立し、ホーチミン市で最新データセンターの建設を開始しました。この案件は、NTTのグローバルな運営技術とDQTekの現地ネットワークを掛け合わせた好例です。
また、2023年11月には香港のGaw Capital Partnersがホーチミン市で20MW規模の稼働中データセンターを取得。今後大規模リノベーションを進め、ASEAN域内での拠点拡大を目指しています。
国内企業でも、Viettelが2024年4月にAI・グリーンDCを新設し、海外投資家や国内外パートナーとの連携を強化しています。こうした事例は、今後さらなる外資流入・提携拡大の呼び水となるでしょう。
データセンター業界におけるM&Aのメリット
データセンター事業においてM&Aを活用するメリットは多岐にわたります。
市場参入の容易化
まず最大の魅力は、市場参入の障壁を大きく下げられる点です。土地取得や許認可、電力・通信インフラの整備には膨大な時間とコストが必要ですが、既存事業者の買収や合弁によって、これらの資源・拠点・顧客基盤を短期間で獲得できます。
外資企業と現地パートナーのシナジー
また、外資大手と現地パートナーの協業により、最新のグローバル運営技術やセキュリティノウハウ、AI対応力などが現地にもたらされます。逆に現地事業者にとっても、海外の資本力やネットワーク、調達力の獲得は成長加速の起爆剤となります。
さらに、最近のM&Aでは「グリーンDC」「AI特化DC」など、持続可能性や次世代技術への対応が強く意識されています。これにより、ESG投資家からの評価向上や、カーボンニュートラル推進といった社会的要請にも応えることができます。
データセンター業界におけるM&Aの課題・リスク
一方、M&A推進にはいくつかの課題やリスクも存在します。
法制度への対応
最も大きいのは法制度対応です。2024年には「データローカリゼーション規制」や新たなサイバーセキュリティ法案が導入され、海外勢からも規制の不透明さ・運用コスト増への懸念が示されています。特に外資にとっては、現地でのデータ保管義務が事業戦略上の制約になり得ます。
電力供給の安定性
また、インフラ・電力供給の安定性も課題です。データセンターは電力消費が極めて大きいため、電力網の強化やエネルギーコストの管理が不可欠です。加えて、運営を担う高度人材の確保や育成も急務となっています。
初期コストの肥大化
さらに、初期投資が巨額であることから、M&A後の投資回収までに一定の期間と稼働率の確保が求められます。計画段階での綿密な事業性評価と、パートナー選定の目利き力が成功のカギとなります。
データセンター業界の代表的企業
ベトナムのデータセンター業界をリードする主な企業は以下の通りです。
FPT Telecom
IT大手FPT傘下。クラウド・AIソリューションとの連携に強み。
CMC Telecom
ホーチミン・ハノイで最新DCを展開。外資との合弁も積極的。
VNPT
国営通信大手。全国規模の通信・データインフラを構築。
Gaw Capital Partners
2023年からベトナムでの既存DC買収・拡張を推進し、外資主導の大型案件が増加。
データセンター業界のM&A事例
2024年6月:NTT Global Data CentersとDQTekの合弁新会社設立
日本とベトナムの連携による新たなデータセンター事業がホーチミン市で始動。NTTの技術とDQTekの現地ネットワークを活用し、2026年稼働を目指す。
2023年11月:Gaw Capital Partnersによるホーチミンデータセンター買収
香港の投資ファンドが稼働中の20MW規模データセンターを取得。今後リノベーションとAI対応拡張を実施予定。
2024年4月:Viettel IDCがAI・グリーンデータセンターを新設
国内外投資家との協業により、AI対応とグリーンエネルギー利用を両立した最新DCを開設。先進的なセキュリティ・サステナビリティ対応が特徴。
おわりに
デジタル化・AI・クラウド活用の加速を背景に、ベトナムのデータセンター市場は今後も力強い成長が続く見通しです。外資・内資によるM&Aや資本提携は、技術革新・持続可能性・サービス多様化を推進するうえで欠かせない戦略となっています。
法規制やインフラリスク、人材不足などの課題もありますが、これらを克服しつつ積極的にパートナーシップを構築できる企業が、今後の市場リーダーとなるでしょう。