ベトナムM&A法務調査の必須チェック項目
目次
はじめに
ベトナムでM&Aを検討する日本企業にとって、買収対象企業のリスクを把握することは欠かせません。その際に重要な役割を果たすのが「法務デューデリジェンス(法務調査)」です。財務やビジネスの確認も重要ですが、法的な権利関係に不備があれば、買収後に事業継続が難しくなる可能性すらあります。
ベトナムでは、登記簿や営業ライセンス、土地使用権など、法律特有の仕組みがあります。これらをきちんと確認せずにM&Aを進めると、後に「営業許可が不十分」「土地が担保に入っていた」「ライセンスの更新が必要」といった問題が浮上し、事業計画に大きな支障をきたします。本記事では、ベトナムでM&Aを行う際に確認すべき主要な法務チェック項目を解説します。
ベトナムにおけるM&A市場の動向
近年、ベトナムでは製造業、IT、小売、物流といった多様な分野でM&Aが活発に行われています。特に外国資本による参入は増加傾向にあり、日系企業の存在感も高まっています。
ただし、制度や法律が頻繁に改正されるため、契約締結時には有効だったライセンスが、買収後に要件変更で使えなくなることもあります。また、土地に関しては外国企業が直接所有できない制度上の制約もあり、対象企業が持つ土地使用権の有効性や契約条件を正しく理解することが不可欠です。
法務デューデリジェンスで確認すべき主要ポイント
ベトナムのM&Aで必ず確認すべき基本的な法務項目は次の通りです。
1.登記簿の確認
会社の正式な登記内容を確認し、代表者や株主、資本金の情報に不備がないかをチェックします。特に過去に増資や持分移転があった場合、その手続きが適正に行われているかが重要です。
2.営業ライセンスの有効性
対象企業が保有する事業ライセンスが現行の法律に適合しているかを確認します。ライセンスが古い形式のまま更新されていないケースや、実際の事業活動と一致していない場合はリスクになります。
3.土地権利の状況
ベトナムでは土地は国有であり、企業は「使用権」を保有します。対象企業の土地使用権が有効かどうか、期限や利用目的が登記と一致しているか、また担保に供されていないかを確認する必要があります。
法務デューデリジェンスのメリット
法務調査を丁寧に行うことで、以下のようなメリットがあります。
・潜在リスクの早期発見:買収後に不利な契約や権利問題が発覚するのを防ぐ。
・価格交渉の材料:発見されたリスクを基に、買収価格の調整や契約条件の見直しを行える。
・事業継続の確保:ライセンスや土地使用権が有効であることを確認することで、事業が安定して運営できる。
・透明性の確保:買収先との信頼関係を構築し、統合後の協力体制を強化できる。
法務デューデリジェンスで直面する課題・リスク
実務では次のような課題に直面することが少なくありません。
・資料不足:中小企業では契約書や登記情報の管理が不十分で、資料が整っていない場合が多い。
・制度変更の影響:法律が頻繁に改正されるため、過去のライセンスが現行制度に適合していないことがある。
・複雑な土地権利:使用権の種類や期限、担保設定状況が複雑で、正確な把握に時間がかかる。
・時間的制約:短期間で調査を行う必要があり、十分な検証が難しいケースも多い。
ケーススタディ
事例1:ライセンス不備による事業停止リスク
ある日系企業は、食品製造会社を買収しましたが、買収後に主要な営業ライセンスの更新がされていなかったことが判明しました。追加で申請を行う必要が生じ、数か月間事業が停滞しました。
事例2:土地使用権の問題
別のケースでは、買収先の保有する工場用地が担保に供されていることが後から分かり、金融機関との交渉が必要になりました。結果として追加コストが発生し、投資回収計画に遅れが出ました。
さいごに
ベトナムにおけるM&Aでは、法務デューデリジェンスをどれだけ徹底できるかが、案件の成否を分けます。登記簿、ライセンス、土地使用権の確認は必須であり、これらを疎かにすると買収後に予期せぬリスクが顕在化します。
日本企業にとって重要なのは、法律の枠組みと現場の実態を両面から確認することです。現地専門家の協力を得ながらチェックリストに基づき丁寧に調査を進めることで、M&A後の安定的な事業運営と投資成果の最大化につながります。