ベトナム物流M&Aの通関・許認可―規制・文化差とリスク管理

目次
はじめに
ベトナム物流業界は、製造業のベトナム移転、内需拡大、EC市場の急成長が重なり、東南アジアの中でも最も成長が期待される分野のひとつである。2024年の港湾取扱量は前年比約14%増、コンテナ取扱量は約2割増と拡大しており、輸出入・国内流通の双方で物流需要が高まっている。
一方で、通関や輸送に関する法令運用が厳格化しており、変化の激しい現地法令への対応が求められる。運送ライセンス( Decree 10/2020)や外資規制(Decree 163/2017)などに加え、行政承認や税関手続きの煩雑さ、文化的な意思決定の違いも、M&Aを進めるうえで課題となっている。
ベトナム物流の市場動向
ベトナム国内の港湾整備と道路インフラの発展は進み、大型船の寄港や幹線輸送の効率化が進展している。一方で、取扱量の増加により港湾ヤードやゲートの混雑が発生し、カットオフの厳守や通関リードタイム管理の難易度が上がっているのが特徴である。
EC市場の拡大(約250億米ドル規模)は、小口配送や返品処理の急増を招き、倉庫在庫の同期や配送ネットワークの最適化が新たな課題となっている。企業はこれに対応するため、WMSやTMSなどのシステム導入、みなし輸出入(On-the-spot)の証憑管理体制強化を進めている。
倉庫・工場の賃貸需要も高水準を維持しており、RBF(Ready Built Factory)やRBW(Ready Built Warehouse)の供給が追いつかない状況にある。温度管理・危険物対応・資格者配置といった品質・安全面の基準遵守が、投資判断や取引評価の新たな焦点となっている。
ベトナム物流のM&Aと、法令対応
ベトナム物流分野のM&Aは、外資の参入とベトナム企業の再編が同時進行しており、港湾・倉庫・輸送・フォワーディングなど各領域で案件が増加している。買収目的は、ハード資産の確保に加え、通関・配送・ITシステムなどのノウハウ獲得にも重点が置かれている。
投資法(2020年改正)やDecree 31/2021では、条件に応じてM&A承認を必要とする場合があり、競争法(2018年)では一定規模を超える取引に経済集中届出が求められる。さらに、資金決済は投資専用口座(DICA/IICA)を通じて行うのが原則であり、為替や配当、再投資に関する条項を契約で明確にしておくことが重要である。
ベトナム物流業界の関連法令について
ベトナムにおいて物流業界に関連する法令のうち、代表的なものには以下が存在する。
1) 外資規制(Decree 163/2017)
複数事業を一社で行う場合は、最も厳しい外資上限が全体に適用される。国内の道路貨物は上限おおむね51%に加え、ドライバーはベトナム人が原則である。港湾・倉庫・幹線を同一法人で抱えるなら、早期に事業分類と売上構成を棚卸しし、出資比率や人員計画に反映する。
2) 運送ライセンス(Decree 10/2020)
営業車ごとに車両バッジ(標章)と台帳管理が必要である。区分変更や台数変更には再取得の時間がかかるため、Day1〜90日の移行計画に組み込む。
3) 通関・みなし輸出入(Decree 167/2025)
通関担当の配置、AEOの管理、みなし輸出入の書類運用が最新ルールに更新された。手順書・権限・IT連携を同時に見直し、四半期の適合チェックと書類管理の指標でモニタリングする。
おわりに
ベトナム物流M&Aの成功には、制度・文化・オペレーションの三要素を総合的にマネジメントする力が求められる。 まず、外資規制や投資承認制度への理解を前提に、計画段階から法令適合性を確認しておくことが不可欠である。次に、買収後90日を目安に、人(資格者配置)・手順(業務マニュアル)・IT(在庫・通関連携)を一体で整備することで、早期に統合を進められる。
また、現地の意思決定スタイルを踏まえたマネジメント体制を構築し、重要案件は迅速に上位報告する体制を整えることが望ましい。これにより、納期・在庫精度・通関リードタイムといった主要KPIを改善し、M&A効果を確実に実現できる。