ベトナム小売企業とのM&Aで成長を加速!M&A成功の秘訣とは?

目次
はじめに
都市化と中間層の拡大により、ベトナムの小売市場は急速に成長している。
特に、コンビニエンスストア、ドラッグストア、そしてEC(電子商取引)の発展は、市場全体の成長を加速している。
そこで本記事では、ベトナム市場における小売業界の動向と、それに関連するM&Aのメリット・留意点について解説する。
小売業界を取り巻く環境
小売業界の市場動向
ベトナムの小売業界は、都市化の進展や中間層の増加、個人消費の回復により急速に成長している。
現在、ベトナムは東南アジアで3番目、世界で15番目の人口規模を持ち、都市部の人口は38.2百万人(全人口の38.1%)に達している。
これにより、小売市場は急成長し、2023年には市場規模が1,800億ドルを超え、2025年には3,500億ドルに達すると予測されている。
また、中間層の人口は2026年までに2,600万人に達する見込みで、消費者の購買意欲が高まり、市場の成長を加速させている。
さらに、実店舗の増加に加えて、電子商取引(EC)市場も急速に拡大しており、オンラインとオフラインを使い分ける消費者が増えている。このトレンドは今後も続くと予測される。

ベトナムの小売業者の約80%がマルチチャネル販売モデルを選んでいる。
出所:https://vneconomy.vn/techconnect//phat-trien-thi-truong-ban-le-ben-vung.htm
小売業界の展望
2024年から2033年にかけての年平均成長率は12%と予測されている。
この間、海外からの投資も増加しており、国際的な小売企業やブランドが次々とベトナム市場に進出している。
特に、消費者のライフスタイルの多様化とオンラインショッピングの普及が、今後の市場を大きく変える要素となる。
小売業界におけるM&Aのメリット
買手企業のメリット
現地市場のノウハウとブランド力を活用
ローカル企業をM&Aすることで、すでに市場の動向や消費者の嗜好を理解している現地スタッフを活用でき、スムーズな事業運営ができる。
また、すでに認知度のある小売ブランドを買収することで、ブランド構築にかかる時間やマーケティングコストも削減可能である。
競争優位性の確保
特にベトナムの小売市場では、現地の流通ネットワークが重要となるが、M&Aを通じて、物流網や仕入れの安定性を確保することができる。
コストとリスクの低減
既存事業を買収することで、店舗の設立費用や流通網の構築に係る初期投資を抑えることができる。
また、外資企業にとっては、現地市場の文化や商習慣の違いなどによる未知のリスクが多いが、M&Aにより、そうした不確実性から生じるリスクを低減することができる。
売手企業のメリット
資本調達と成長機会
外資企業との提携により、資本を調達し、事業拡大や設備投資を加速できる。
これにより、売手企業は新規事業の立ち上げや市場の拡大に必要な資金を得ることができ、成長を加速させることが可能となる。
技術・経営ノウハウの導入
外資企業は先進的な技術や経営手法の提供を通じて、売手企業の生産性や効率を向上させることができる。
新しい技術や経営ノウハウを取り入れることで、競争力を強化し、業務の最適化が進む。
市場競争力の向上
外資企業との連携により、売手企業はブランド力や製品ラインを強化でき、市場での競争力向上に繋がる。
また、外資のネットワークを活用し、国内外での販路拡大が期待できる。
小売業界におけるM&Aの課題・注意点
M&Aは、外国企業がベトナム市場に参入または拡大するための実行可能な戦略である。
しかし、リスクを最小限に抑え、機会を最大化するためには、市場や規制に関する深い知識を持ち、現地のM&Aプロセスに精通した専門家との協力が重要である。
法的・規制上の課題
ベトナムの法制度は発展途上であり、特に外国企業にとっては外資規制や土地利用権に関する問題が生じやすい。
外資規制により、外国企業が進出する際に出資比率に制限があり、土地利用権の問題も重要な課題となる。
規制の変更にも注意が必要であり、最新の法規制を把握することが求められる。
文化・経営の違い
ベトナムの企業は家族経営が多く、意思決定がトップダウンで行われることが多い。
外国企業と経営スタイルの違いがあるため、M&A後の統合が難しくなることがある。
また、ベトナム市場の特性に対応するためには、ローカルな消費者ニーズを理解し、適切な戦略を立てる必要がある。
競争環境
ベトナム市場は急速に成長しており、大手企業との競争が激しい。
特に都市部では競争が激化しており、新規参入企業は価格戦略やプロモーション、差別化を図る必要がある。また、オンライン小売の進展にも対応しなければならない。
顧客行動とマーケットの多様性
ベトナムでは、都市部と地方部で消費者行動に大きな違いがある。都市部では高級志向が強く、地方部では価格重視の消費が続いている。これに対応するためには、製品やサービスのターゲット層を明確に分ける戦略が必要だ。
統合の複雑さ(PMI)
M&A後の統合プロセスでは、企業文化や業務プロセスの調整が必要で、時間とリソースがかかることがある。特にベトナム企業との統合では、現地の文化を理解し、従業員の協力を得ることが重要だ。
小売業界の代表的な企業(1-2社)
VinMart:
VinMartは、ベトナムの大手小売企業で、スーパーマーケットやコンビニチェーンを展開している。VingroupとMasan Group傘下のこの企業は、3,600店舗以上(2024年8月時点)のVinMartとVinMart+を展開し、特に都市部を中心に広がり、消費者に日常的な食料品や生活必需品を提供している。VinMartの強みは、広範な店舗ネットワークと高品質な製品群を提供している点にあり、低価格と高品質を両立させた商品で多くの消費者に支持されている。また、VinMartはオンラインショッピングの需要に応じて、EC事業にも力を入れており、配送サービスの向上やオンライン注文の拡大を図っている。

Saigon Co.op:
Saigon Co.opは、ベトナムの大手小売企業で、スーパーマーケット「Co.opmart」やショッピングセンターを運営している。
2023年、サイゴンCo.opの売上高は約30兆ドンに達し、コスト管理を適切に行い、業務効率を確保した結果である。
特に、2023年のオンライン販売の売上は1兆7,000億ドンを超え、前年同期比で20.7%の成長を達成した。
現在、同システムは毎日100万人の顧客にサービスを提供し、400万人以上の会員顧客を抱え、Co.opmartスーパーマーケットをはじめ、Co.opXtra、Co.opFood、Co.op Smile、Cheers 24h、SC Vivo City、Sense City、SenseMarketなどの小売ブランドを含む800以上の販売拠点を所有している。

業界のM&A事例(2-3件)
Masan GroupによるM&A:
Masan Groupは、ベトナムの大手消費財企業で、2020年末にVingroupからVinMartおよびVinMart+のスーパーマーケットチェーンを買収するという注目のM&Aを実行した。
この取引は、Masan Groupが流通ネットワークを拡大し、ベトナムの小売市場における地位を強化する助けとなった。
買収後、マサンはVinMartのブランド名を「WinMart」に変更し、VinMart+も「WinMart+」に改名した。
また、これに合わせて小売チェーンの運営効率を改善し、ブランド名の変更と再構築を通じて、差別化を図り、顧客の購買体験の向上を目指した。
このM&Aは、2009年から2023年にかけてのベトナムにおける代表的なM&A事例の一つとされ、ベトナムの小売市場を再構築する上で重要な役割を果たし、消費者にも利益をもたらしていると評価されている。

MM Mega MarketのM&A:
MM Mega Marketは、2016年にタイのTCCグループによって、ドイツのMetroから買収され、2017年にブランド名が変更された。この買収により、TCCグループはベトナムの小売業を拡大し、全土に21のセンターを展開している。Metroは2002年にベトナムに進出し、卸売業を行っていたが、経営の効率化のために売却された。
MM Mega Marketは、企業向けだけでなく、家庭向けの商品も提供し、地元製品の消費を促進している。また、オンライン販売を強化し、消費者に便利なショッピング体験を提供している。これにより、ネット通販と実店舗の統合が進み、消費者の購買体験の向上を図っている。
この買収により、MM Mega Marketはベトナム市場での競争力を強化し、消費者に多様な選択肢とサービスを提供することに成功した。

さいごに
ベトナムの小売市場は急成長しており、現地企業とのM&Aは外資企業にとって有効な手段である。
しかし、日本とは異なる法規制や会計事情があるため、現地の情報に詳しい専門家との協力が不可欠である。
M&Aを適切に活用することで、リスクを最小限に抑え、ベトナム市場における競争力を高めることができる。