ベトナムIT業界におけるM&Aに関心のある日本企業向けのインサイト 

ベトナムは現在、日本企業にとって戦略的なIT投資先として注目されている。特に、事業拡大やソフトウェア開発センターの設立を目指す企業にとって、M&A(合併・買収)は有効な手段となる。若く優秀な人材、競争力のあるコスト構造を持つベトナムは、単なる経済的魅力だけでなく、日本企業のアウトソーシング需要に応える強力なパートナーとなり得る。以下で、日本企業がベトナムIT市場でM&Aを検討する際の重要なポイントと考慮すべき事項を紹介する

ベトナムIT市場の強み 

優秀な人材とコスト競争力 

ベトナムには、若く高度な技術力を持つIT人材が豊富に存在する。Java、Python、Cなどのプログラミング言語に精通し、新しい技術への適応力も高いのが特徴だ。特に、日本やその他の地域と比較して人件費が低いため、運営コストを削減し、利益率を向上させることが可能である。 

専門家A(M&Aアドバイザー)は「優秀な人材とコスト面でのメリットを兼ね備えたベトナムは、日本企業にとって東南アジア市場でのIT投資の最適地の一つだ」と指摘している。 

魅力的な税制優遇措置 

ベトナム政府はIT業界を積極的に支援しており、企業向けに様々な税制優遇を提供している。例えば、条件を満たせば、法人税率は最長15年間10%に優遇され、初年度から4年間は免税、その後9年間は50%減税の措置を受けることができる。これにより、日本企業はコストを最適化し、競争力を強化することが可能になる。 

ただ、専門家B(ベトナム税務アドバイザー)は「税制優遇を享受するためには、厳格な法規制を遵守する必要があり、適切な管理が求められる。特に、開発活動の証明書類や定期的な報告義務を怠ると、後の税務リスクにつながる」と指摘している。

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高度なITインフラと安定したビジネス環境 

ベトナムはデジタルインフラへの投資を強化しており、IT企業が成長しやすい環境が整いつつある。また、外国投資家にとっても透明性のあるビジネス環境が整備され、行政手続きの簡素化が進められている。こうした動向に加え、多くの大手テクノロジー企業がベトナム市場への進出を加速させており、国内のIT・電子産業の発展を一層促進している。その代表的な例として、2022年末にSamsungがハノイに東南アジア最大規模の研究開発(R&D)センターを開設し、長期的な投資へのコミットメントを示したことが挙げられる。また、Intelはホーチミン市における半導体検査工場の第2フェーズを拡張し、総投資額を40億ドルに引き上げることで生産能力を強化し、グローバルなサプライチェーンへの貢献を深めている。さらに、2023年9月初旬にはAppleが、ベトナムに11のオーディオ・ビジュアル機器製造工場を移転し、地域におけるサプライチェーンと製造拠点の拡充を進めた。加えて、NVIDIA、Infineon Technologies、Bosch、Panasonic、Renesas Electronicsなどの企業も、ベトナムにR&Dセンターを設立し、先端電子技術や製品の研究開発を推進しており、ベトナムの技術革新と産業高度化に大きく貢献している。 

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2. ベトナムIT産業における外国人投資家のチャンス:M&Aの視点から 

ベトナムのIT産業は急成長し、外国人投資家にとって魅力的な投資機会を提供する。特に、M&A(合併・買収)を活用することで、市場参入を加速し、競争力を強化する戦略が有効になる。以下、M&Aの視点から具体的な機会を分析する。 

スタートアップ企業の急成長と買収機会 

ベトナムのITスタートアップ市場は急速に拡大しており、特にフィンテック(FinTech)、Eコマース(EC)、SaaS(クラウドサービス)、AI・データ分析の分野で有望な企業が増えている。 

フィンテック分野では、電子決済やデジタルバンキング、P2Pレンディングを提供する企業が台頭し、その代表例としてMoMoが挙げられる。MoMoは、2024年12月にシリーズEの資金調達を完了し、企業価値が20億ドルを超える「ユニコーン」となった。同社はMizuho Bankを筆頭とするグローバル投資家から約2億ドルの資金を調達し、ベトナムの電子決済市場での地位をさらに強固なものにしている。 

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一方、AI・データ分析の分野では、英語発音矯正アプリ「ELSA」が注目されている。ELSAは世界各国の英語発音データを活用し、非ネイティブスピーカーの発音ミスを特定・修正する技術を提供しており、現在までに全世界で5,000万回以上ダウンロードされている。こうしたベトナムのスタートアップは急成長を遂げる一方で、市場拡大や資金調達のために外資系企業との提携やM&Aを積極的に進めている。特に日系・欧米系企業にとっては、現地市場に精通した企業の買収を通じて、迅速な市場参入とシェア拡大が可能となる点が大きな魅力となっている。 

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技術力のあるローカルIT企業のスケールアップ 

ベトナムには、オフショア開発を主力とするIT企業が多数存在し、日本企業や欧米企業と取引実績を持つ企業が多い。これらの企業は開発プロセスや品質基準を理解し、グローバル市場に適応できるため、M&Aのターゲットとして魅力的である。 

投資家は以下の方法でM&Aを活用できる: 

技術力のある企業を買収し、グローバル開発拠点として活用する 
現地市場向けのサービスを強化するためにローカル企業と統合する 
既存の顧客基盤を持つ企業を取り込み、市場シェアを一気に拡大する 

この戦略により、単なる投資ではなく、既存ビジネスとの統合による競争力の強化が可能になる。 

外資規制の緩和とM&A環境の改善 

ベトナム政府はIT・デジタル分野への外資投資を積極的に奨励し、M&Aのハードルを下げる政策を実施する。 

100%外資企業の設立が可能な業種が増加する 
M&A手続きを簡素化し、許認可の取得が迅速化する 
法人税優遇措置(IT企業向けの特別インセンティブ)を提供する 

これにより、法的・制度的な面で、M&Aを通じた市場参入が容易になる。 

結論 

ベトナムのIT市場は、日本企業にとって成長市場への迅速な参入、技術力の獲得、コスト競争力の強化が期待できる魅力的な投資先である。特にM&Aを活用すれば、優秀な人材や既存の市場基盤を活かし、効率的に事業を拡大できる。しかし、ビジネスモデルと技術力の評価、税務・法務リスクの管理、人材定着戦略の構築が成功のカギとなる。文化や経営スタイルの違いを考慮し、統合プロセス(PMI)を慎重に設計することが不可欠である。今後、ベトナムIT業界の成長に伴い、M&Aの機会も拡大する。日本企業は短期的なコスト削減ではなく、長期的な市場成長を視野に入れた戦略的な投資を行うことで、持続的な競争力を確保できる。