なぜベトナムなのか?――急成長と構造改革が拓く未来への扉

なぜベトナムなのか?――急成長と構造改革が拓く未来への扉

はじめに 

日本国内市場は、人口減少や少子高齢化による需要縮小に直面しており、企業の成長余地は年々狭まっている。このような環境下で、海外市場に活路を求める動きは必然的な流れとなっている。なかでも注目されるのが、ASEAN諸国の中でも突出した成長ポテンシャルを有するベトナムである。 
本稿では、最新の経済動向とASEAN内比較を踏まえつつ、「なぜベトナムなのか」を明らかにし、M&Aを通じて市場参入を検討すべき理由を整理する。 

ベトナム経済の最新成長動向 

2025年上半期、ベトナムのGDP成長率は7.52%と過去15年で最速を記録した。製造業とサービス業が成長を牽引しており、経済構造のバランスが改善している。世界銀行は同年の成長率を6.8%、OECDは6.2%、AMROは7.0%と予測しており、国際的にも高い成長ポテンシャルが認められている。 
また、政府は2045年までにベトナムを「高所得国」かつ「次のアジアの虎経済」とする目標を掲げており、インフラ整備や産業高度化への投資を積極的に進めている。 

ASEAN内での比較:なぜベトナムか? 

ASEANには多くの新興国が存在するが、その中で「なぜベトナムなのか」を理解するためには、他国との比較が有効である。 

インドネシアはASEAN最大の人口を誇るが、規制の複雑さや外資制限の高さから参入難易度が高い。 
ミャンマーは政治的不安定さや国際関係のリスクが高く、長期的な投資環境としては不透明である。 
カンボジアは成長率自体は高いものの、市場規模が小さくスケールメリットに限界がある。 

これに対してベトナムは、①高成長、②市場規模、③政治的安定、④外資誘致政策という四つの要素をバランス良く備えている点が特徴である。このバランスこそが、実際に外国投資家がベトナムを「最も実務的な投資先」と位置づける理由である。 

輸出主導の回復力 

ベトナムの強みは、製造業を中心とした輸出主導の成長モデルにある。2025年前半の輸出額は月平均374億ドルに達し、7月には416億ドルに到達する見通しだ。自由貿易協定の活用も進んでおり、米国や欧州、日本との取引拡大が加速している。さらに、米国から原油を調達するなど柔軟な供給戦略を展開し、エネルギー安全保障にも配慮した体制を構築している。 

構造改革と未来投資の加速 

ベトナムは持続的成長を実現するために、産業高度化と制度改革を並行して進めている。 

未来産業投資:半導体、AI、再生可能エネルギー分野に重点投資を行い、産業ポートフォリオの転換を図っている。 
国際金融センター構想:ホーチミン市やダナンに金融特区を設け、資本市場の国際化を進めている。 
ゴールデンビザ構想:長期滞在を可能にする制度を通じ、投資家・高度人材の誘致を狙っている。 

こうした取り組みは、単なる「安価な製造拠点」というイメージから「高度産業・投資のハブ」への進化を後押ししている。 

ベトナムがM&A対象として有望な理由 

ベトナムは新規参入市場として有望であると同時に、M&Aを通じて参入するメリットが大きい。 

1.即効性ある市場アクセス:買収により現地販路・顧客基盤を一挙に獲得できる。 
2.政策の後押し:外資誘致や投資優遇策が整備され、制度的障壁が低下している。 
3.需給安定性:輸出主導モデルとFTA網により、外需への対応力が高い。 
4.産業集積効果:IT、再エネ、消費財など成長産業が集積し、シナジー創出が期待できる。 

M&Aの意義とメリット 

M&Aの意義は、日本企業とベトナム企業の双方に存在する。 

日本企業にとって:現地人材やノウハウの獲得、許認可対応の効率化、成長分野への迅速な参入が可能となる。 
ベトナム企業にとって:日本の技術やブランドの獲得、製造品質やガバナンス体制の強化、グローバル市場展開の足掛かりとなる。 

双方向のM&Aが進むことで、単なる資本移転ではなく、日越間での新たな価値創造が可能となる。 

課題とリスク 

一方で、M&Aには以下の課題も存在する。 

経営文化の相違:日本企業の慎重な意思決定と、ベトナム企業のスピード感の違い。 
デューデリジェンス不足:財務・法務リスクの見落としによる損失可能性。 
規制変動リスク:外資規制や税制変更の影響。 
パートナー選定の難しさ:戦略や価値観の不一致はシナジーを損なう要因となる。 

これらを克服するには、現地事情に精通した専門家の活用と、PMI(統合プロセス)の戦略的設計が不可欠である。 

さいごに 

ASEAN諸国の中で、ベトナムは規模・成長性・安定性・政策環境のバランスを兼ね備えた稀有な存在である。日本企業にとって、M&Aはベトナム市場への最も現実的かつ効果的な参入手段であり、成長戦略の中核を担い得る。 
今後、さらに具体的な事例や実務的な方法論に触れる機会が予定されており、それを契機として戦略的行動に移すことが、日本企業にとっての持続的成長の鍵となるであろう。