ベトナム包装材業界の最新M&Aと環境対応戦略

ベトナム包装材業界の最新M&Aと環境対応戦略

はじめに 

企業の成長戦略において、CSRやSDGsといった環境配慮の視点を経営に組み込むことは不可欠となっている。包装材業界は特にその影響を強く受ける分野であり、世界的な脱プラスチックの潮流を背景に、環境負荷の低い素材への転換が加速している。 
ベトナムは、消費地としても生産地としても包装材需要が拡大するユニークな市場である。国内消費の拡大と輸出産業の成長に支えられる一方で、環境規制の強化が進んでおり、サステナブル包装への対応は企業活動の前提条件になりつつある。 

包装材業界の二重構造:消費地としてのベトナム 

ベトナムは人口1億人規模に迫り、都市部の中間層拡大が進む。食品・飲料のパッケージ需要や日用品の包装材需要は着実に増加している。さらに、ShopeeやLazadaといったECプラットフォームの拡大により宅配需要が爆発的に伸び、配送用パッケージの需要は急増している。国内消費市場の成長が、包装材需要の拡大を直接的に押し上げている。 

包装材業界の二重構造:生産地としてのベトナム 

同時に、ベトナムは世界の「工場」としての役割を強めている。繊維、農水産物、電子部品などの輸出産業において、包装材は製品品質保持や国際物流に不可欠である。特にEUや米国といった輸出先では、包装材の環境対応基準が年々厳格化している。輸出競争力を維持するためには、ベトナム発の包装材がこれら国際基準に適合することが不可欠である。 

このようにベトナム包装材市場は「国内消費向け」と「輸出産業向け」という二重構造を持ち、その両輪によって持続的な成長が見込まれる。 

ベトナムにおける環境法規制・直近動向 

1. 環境保護法とEPR制度 

2022年の環境保護法改正により、包装材業界に大きな影響を与える拡大生産者責任(EPR)制度が導入された。2025年施行の政令(Decree 05/2025)では、包装材メーカーや輸入業者に対し、リサイクル義務や基金拠出義務が課される。小規模企業には免除規定が設けられる一方、中堅・大企業にとってはコスト負担増加が避けられない。 
 

2.プラスチック削減ロードマップ 

政府は2030年までに使い捨てプラスチックを大幅削減する目標を掲げている。2026年からは非生分解性の小型ビニール袋が禁止される予定で、紙袋や生分解性パッケージ材の需要は飛躍的に増加するだろう。 

 
3.エコラベル制度 

2023年11月に施行された「NSTVN-01:2023」により、生分解性・リサイクルプラスチック包装材を対象とした国家エコラベル制度が導入された。エコラベルを取得することで企業はブランド価値を高められるが、同時に技術基準や品質管理体制の整備が求められる。 

 
4.サーキュラーエコノミー政策 

2025年に発表された「National Action Plan on the Circular Economy(NAPCE)」では、包装材産業が重点産業の一つに指定された。リサイクル率の向上、資源循環のインフラ整備が国策として推進され、企業には循環型生産モデルの採用が求められている。 

 
5.グリーンシフトとリサイクル産業 

政府が掲げる「Green Shift」戦略の中で、包装材・リサイクル産業は環境成長産業としての役割を担う。リサイクルインフラ整備や廃棄物回収ネットワークの拡充が進められており、包装材メーカーも単なる生産者から「循環経済の担い手」としての位置付けが強まっている。 
 

6.実務上の課題 

最新調査では、多くの企業がEPR制度の理解不足により報告体制の構築が不十分であることが指摘されている。また、ベトナムは廃プラスチック輸入大国となっている一方で、処理インフラの整備が追いつかず環境負荷が問題視されている。規制強化とインフラ不足という二重課題が同時進行している状況である。 

さいごに 

ベトナム製紙・包装材業界は、Eコマース・食品市場の拡大や脱プラスチック政策を背景に急成長している。外資による投資・M&Aが活発化する中、日系企業にとっても参入の好機である。 

重要なのは、M&Aを単なる市場参入の手段として捉えるだけでは不十分だという点である。 

M&Aを実行する過程で、環境対応やCSRの要素を企業戦略に組み込むことが、グローバル市場での持続的な競争力につながる。エコ素材に強みを持つ現地企業を取り込めば、即時的な市場シェア拡大に加え、CSR・SDGs対応力を同時に強化できる。成長と環境対応を両立させる視点こそが、今後の競争環境において持続的に勝ち残るための鍵となる。