ベトナムM&Aで注意すべき独自リスク3選 

ベトナムM&Aで注意すべき独自リスク3選 

はじめに 

ベトナムは東南アジアの中でも安定した経済成長を続け、人口規模や若年層の多さを背景に、多くの外国企業から投資先として注目されています。特に日本企業にとっては、中国に次ぐ生産拠点や消費市場としての魅力を持ち、M&Aを通じた参入事例も増加しています。 

しかしながら、ベトナムでM&Aを進める際には、先進国や他のASEAN諸国にはない独自のリスクが存在します。ターゲット企業を選定する段階でこれらのリスクを正しく把握しなければ、後の交渉や統合プロセスに大きな支障をきたす可能性があります。 

本稿では、特に重要な3つの観点 ― 外資規制株主構成の複雑さ簿外債務リスク ― を中心に、ベトナムにおけるM&Aの留意点を解説します。 

ベトナムM&A市場の動向 

ベトナムのM&A市場は、ここ数年で大きく成長を遂げています。外資系投資ファンドや多国籍企業による大型案件が目立つ一方、日本企業による中規模案件も増加傾向にあります。特に製造業、不動産開発、小売業、ITサービスなどが注目分野です。 

一方で、ベトナムでは依然として市場透明性や規制面での課題が残ります。外資の参入が制限される業種も多く、政府の承認プロセスが複雑なケースも少なくありません。また、会計や内部統制の未整備から、デューデリジェンスの段階で問題が発覚する例もあります。 

このように成長機会とリスクが混在する市場環境において、ターゲット企業の選定時点での判断が、M&Aの成否を大きく左右するといえます。 

ベトナムM&Aにおけるターゲット企業選定時のリスク 

1. 外資規制の存在 

ベトナムでは、業種ごとに外資比率の上限や事業参入条件が定められています。例えば、小売業や物流、金融、不動産などは外資100%での参入が難しく、現地企業と合弁が必要となる場合があります。 

そのため、買収を検討している企業が外資規制の対象となる業種に属する場合、買収スキームの再設計や追加の許認可取得が必要になることがあります。規制を軽視して進めると、クロージング後に事業展開が制限されるリスクが生じます。 

2. 株主構成の複雑さ 

ベトナム企業では、創業者一族、親族、従業員、さらには複数の小口株主が入り混じっていることが多く、株主構成が複雑なケースが目立ちます。 

株主間契約が未整備な場合、企業買収後の経営権掌握に支障をきたしたり、意思決定が遅れる原因となります。創業者と親族間で利害が対立している場合、交渉そのものが長期化するリスクもあります。 

3. 簿外債務リスク 

ベトナムでは、会計基準の運用や内部統制が十分に整備されていない中小企業が多く存在します。そのため、帳簿に記載されていない債務や、関連会社への保証、未払い税金などの簿外債務が存在するリスクがあります。 

特に税務調査の結果、過去の会計処理が認められず多額の追徴課税が発生する事例は珍しくありません。M&A後にこうしたリスクが顕在化すると、想定以上のコストが発生し、投資回収計画に大きな影響を与える可能性があります。 

M&Aにおけるリスク回避のメリット 

これらのリスクを正しく把握し、事前に対策を講じることには以下のメリットがあります。 

外資規制の理解による事業の安定性確保 
外資規制を踏まえてスキームを設計することで、承認プロセスが円滑に進み、参入後の事業展開もスムーズになります。 

株主構成の整理による統合円滑化 
株主間の利害関係を精査し、事前に整理しておくことで、買収後の経営権掌握が容易となり、PMI(統合プロセス)の成功率が高まります。 

簿外債務調査による適正価格での買収 
潜在的な負債を把握できれば、買収価格の調整や保証契約に反映させることが可能となり、投資リスクを最小化できます。 

ベトナムM&Aにおける課題・リスク 

もっとも、リスク回避には限界があるのも事実です。 

・外資規制は法律改正や行政判断に左右されやすく、事前調査だけでは不十分な場合があります。 

・株主構成の複雑さは、デューデリジェンスでは把握しきれず、交渉が予想以上に長期化することがあります。 

・簿外債務は、専門家の調査を経ても完全には排除できず、最終的には契約上の補償条項で対応せざるを得ないこともあります。 

このため、リスクをゼロにすることは難しく、いかに事前に想定し、契約や交渉に反映させるかが重要となります。 

ベトナムで代表的な企業の特徴 

  製造業企業A社 
外資規制は緩やかだったものの、複数の株主が経営に関与しており、利害調整に時間を要した。事前に株主構成を整理したことで、交渉後はスムーズにクロージングに至った事例。 

  小売業企業B社 
外資規制により100%子会社化ができず、現地パートナーとの合弁スキームで参入。規制を理解した上でスキームを設計したことにより、安定した市場参入を実現。 

  ITサービス企業C社 
会計処理の透明性が低く、デューデリジェンスで簿外債務が判明。買収を見送ったが、事前調査により損失回避につながった。 

ベトナムM&Aの事例 

  日本企業X社による製造業買収 
株主構成の整理を交渉前に行い、主要株主との合意を確保したことで、クロージング後に安定した経営権を掌握。 

  欧州企業Y社による小売業投資 
外資規制により100%出資はできず、合弁方式を採用。現地有力企業との提携を通じ、規制をクリアしながら市場に参入。 

  日本企業Z社によるIT企業買収 
デューデリジェンスで把握できなかった簿外債務が後に発覚し、追加負担が発生。ただし、契約時に保証条項を盛り込んでいたため、損失を最小限に抑制できた。 

さいごに 

ベトナムは大きな成長ポテンシャルを秘めた市場であり、M&Aは参入戦略の有力な手段となります。しかし、ターゲット企業選定時には、外資規制、株主構成の複雑さ、簿外債務リスクという独自のリスクを慎重に検討する必要があります。 

こうしたリスクを見落とすと、投資回収に時間を要したり、事業運営に支障をきたす恐れがあります。一方で、事前調査や適切な契約設計を行えば、リスクを大きく軽減することも可能です。 

ONE-VALUEのように現地の法制度や商習慣に精通した専門家のサポートを受けながら進めることで、リスクを管理しつつ、M&Aを成功に導く可能性は飛躍的に高まります。